2020年本屋大賞ノミネート作品
「あなた自身が住みたい家を建ててください」
一級建築士の青瀬稔(あおせみのる)は、とある夫婦、吉野陶太(よしのとうた)と吉野香里江(よしのかりえ)から設計を依頼される。
北からの柔らかい光、ノースライトを取り込んだ渾身の木の家(Y邸)は、建築雑誌に取り上げられるほど絶賛された。
しかし、そこに住んでいるはずの夫婦は姿を消す。
ただ一つ残されていたのはブルーノ・タウトの一脚の椅子だけだった。
Y邸でいったい何が起きたのか…
実際に実在したドイツの建築家ブルーノ・タウトの生涯と椅子を巡って繰り広げられるミステリー。
「半落ち」や「64」のイメージが強い横山秀夫先生の作品。
横山秀夫らしくない新しいミステリーだったと感じました。
舞台は建築業界。
建築にまつわる難しい描写も多く序盤はなかなかついていけませんでした。
バブル崩壊で苦しむ中、家族をも崩壊。
それでも自分の生き様を貫き通す、熱い人物たちがいた。
読み進むのにかなりの時間がかかりましたが、温かい人間関係や、家族愛を感じる作品でした。
さまざまな謎と過去とが複雑に交わり合い、驚きと感動の真実が明らかになっていく。
「埋めても埋めても足りないものをただひたすら埋めること」
そんな感覚を味わったことはないですか?
足りないものを埋めるために、もがき苦しむ。
もがき続けて、埋めて埋めて。
そんな人生を送ってきた青瀬の親友であり戦友の岡嶋昭彦(おかじまあきひこ)がまたカッコ良い。
黒く汚い世界に翻弄され衰弱していく親友。
突然の別れ。
そんな彼の意思を継ぎ一致団結する同士たち。
立ち上がり、突き進む同士たちにとても胸が熱くなりました。
殺人や事件とはかけ離れた美しいミステリー
しかしながら、人間や家族との絆を見つめるヒューマン・ヒストリーだと感じる。
「ノースライト」のように、柔らかく、温かく、美しい思いに包まれる。
タウトとエリカの二つの花が心(しん)を一つにしたような美しい同心梅の愛。
作中では明かされていないこの謎に皆さんは気づきましたか?