【 小説乃湯 お風呂小説アンソロジー / 有栖川有栖 】

小説

小説乃湯へのご案内

 

浮世風呂 式亭三馬(しきてい さんば)

江戸の銭湯の情景をリアルに描いた銭湯レポート小説。

 

柳湯の事件 谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)

銭湯で起きた謎多き事件を解決へと導く小説家と弁護士。

奇妙で恐ろしい探偵小説。

 

泥濘(でいねい) 梶井基次郎(かじい もとじろう)

金も無い、小説も書けない作者。

ふらふらと街を彷徨い客観的に自分を見つめていく。

 

電気風呂の怪死事件 海野十三(うんの じゅうざ)

とある銭湯の電気風呂で男が感電してしまう。

大騒ぎの男湯の横で更なる事件が起きる。

海野十三のデビュー作でもあるミステリー小説。

 

玄関風呂 尾崎一雄(おざき かずお)

煉炭風呂(煉炭を入れておけば自然と風呂が沸く)をお隣から安く買い取った夫婦。

買ったは良いものの置き場に困ることに。

その風呂桶を置いたのは、まさかの玄関。

 

美少女 太宰治

妻に連れられて温泉に訪れる男。

そこで美しい少女の裸に目を奪われる。

ある日そんな少女と再会を果たすが…

 

エロチック街道 筒井康隆

見知らぬ夜の街で、路頭に迷う主人公。

ある温泉へと迷い込む。

そこで裸の美女に案内されながら奇妙な洞窟温泉を滑り落ちていく。

 

ああ世は夢かサウナの汗か 辻真先

旅館の屋上庭園で堕落死体が発見された。

この不可解な謎に、サウナ探偵が挑む。

謎が謎を呼ぶ殺人事件。最後にはまさかの展開が。

 

秘湯中の秘湯 清水義範(しみず よしのり)

骨壺温泉・死急温泉・恥曝温泉など、絶対に行くことは出来ない奇妙な秘湯を紹介したガイドブックのような物語。

ユーモアある作り話はどこかファンタジー。

 

水に眠る 北村薫

先輩に連れて来られたのは新橋の狭い酒場。

そこで出会ったウィスキーの水割りの秘密とは。

 

花も嵐も春のうち 長野まゆみ

世間をはばかる忍びごとや、逢瀬のための宿。

その宿の16歳の息子、左近桜蔵は初めて妖しい男を拾うことに。

 

旅をあきらめた友と、その母への手紙 原田マハ

親友と旅に出られなかった女性の温泉一人旅。

そこで見つけた旅の意味。

 

 

有栖川有栖さんが集めた古今東西、お風呂や温泉にまつわる傑作短編集。

12作品の湯と、有栖川有栖さんによる「小説乃湯へのご案内」「あとがきに代えて」をふまえた全14の作品。

純文学あり、ミステリーあり、ファンタジーあり。

熱読しすぎて湯あたり注意のアンソロジーとなっています。

 

作家ごとの湯を愉しむ

 

今人気の作家から、時代はさかのぼって江戸の作家の作品まで。

時代ごとの情景や、人間ドラマを一気に楽しめる贅沢な作品です。

 

浮世風呂」では馴染みのない古典的な文章に四苦八苦しながらも、当時の言葉遊びに触れることができる。

また、江戸時代の銭湯の情景が浮かんでくるような不思議な感覚を体験しました。

 

柳湯の事件」「電気風呂の怪死事件」「ああ世は夢かサウナの汗か」では殺人事件ありのミステリーや推理が楽しめる。

それはゾッとするような奇妙な事件だったり、ユニークで謎が多い事件だったり…

決してあり得ない難解な事件で明かされる衝撃的な事実やどんでん返し。

 

秘湯中の秘湯」ではそんな秘湯があったのか!!

と驚きがある中で読み進めていくうちにいやいや…と可笑しくなってしまうほどの不思議でおかしな湯が登場します。

極道しか集まらない温泉って。

 

美少女」「エロチック街道」では少しムラっとするような官能的な描写があります。

現代ではあり得ない、目の前に女性の裸体がある湯って。

当時は存在していて、当たり前だったのでしょうか。

 

水に眠る」「旅をあきらめた友と、その母への手紙」では現代の日常をリアルに描きつつ、心温まる物語がありました。

 

 

ヒノキ風呂の湯船に、季節の花が舞い散る様子

ぬるめの湯でありながら温泉の効果でじんわりと体が温まっていく様子

どの作品にも湯に浸かりたくなる描写がありました。

 

いい湯加減の風呂

 

個人的に「水に眠る」「旅をあきらめた友と、その母への手紙」が好きでした。

「旅をあきらめた友と、その母への手紙」では友の母への手紙がとても優しく、心があたたかくなりました。

女一人旅。色んなことを考えてしまいます。

 

収録された作品はどれも面白いのですが、前置きとあとがきにある有栖川有栖さんの文章も傑作なんです。

「あとがきに代えて」ではあとがきとありながら、収録されている作品を簡単に説明してくれています。

どの作品から読むか悩んだら、まずこの「あとがきに代えて」から読んでいただき、お好みの湯を堪能するのも良いかもしれません。

 

面白い小説に没頭していると、いい湯加減のお風呂に入っているような心地になります。

初めて読む物語は、未知の土地を巡る旅に似ていると有栖川有栖さんは言います。

そんな旅先で出会う湯もまた小説と似ているところがある!という表記にとても納得してしまいました。

作者が創造した世界(湯)にどっぷりと浸かる

それはまるで小説浴。

 

私も温泉や風呂に浸かる体が身震いするような気持ちの良い描写が大好きです。

そんなあの湯船に浸かる瞬間が思い浮かんでくるような描写が盛り沢山の作品。

200年にもおよぶ湯への旅を【 小説乃湯 お風呂小説アンソロジー (角川文庫) 】でお楽しみください。

 

 

https://twitter.com/Aya2020book

 

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