奇妙な物語と癖になる挿絵
ミック・ジャクソン 著
イギリスの作家。ロックバンドで活躍したのちに、ドキュメンタリーを中心に短編映画の監督脚本を手がけ、97年に【 穴掘り公爵 】で作家としてデビューしたとのこと。
何やら多才だ。
しかも、このデビュー作は、イギリスの最高文学賞と言われるブッカー賞を受賞しています。
ちょっと奇妙で、ちょっと切ないお話【 こうしてイギリスから熊がいなくなりました 】。
内容はもちろんですが、表紙にも使われている挿絵がとても魅力的。
これはデイヴィッド・ロバーツという挿絵画家が描いたものなのですが、ミック・ジャクソンの他の作品の挿絵も手がけています。
また、絵本画家でもあるのでどこかでこの絵を見たことがある方もいるかもしれません。
物語の一部を切り取ったこの挿絵。
文庫本の表紙の絵は、熊がお世話になったおじいさんに熱い抱擁をしている描写なのですが、素敵な絵ですよね。
こう聞くと心温まるシーンと思われるかもしれませんが…ここにも奇妙な物語が潜んでいます。
ミック・ジャクソンの奇妙な物語と、このデイヴィッド・ロバーツのちょっとダークな絵の相性が抜群に良い。
ちなみに原書の方の表紙もお洒落で可愛かった。特に真ん中の潜水用ヘルメットを被った熊!
物語でも大活躍します。
物語と共に、このデイヴィッド・ロバーツの43点にも及ぶイラストも楽しんでいただきたい。
こうしてイギリスから熊がいなくなりました あらすじ
電灯もオイル・ランプもなく、夜がまだ謎めいていたころ、森を忍び歩く悪魔として恐れられた「精霊熊」。
死者のための供物を食べさせられ、故人の罪を押しつけられた「罪食い熊」。
スポットライトを浴びせられ、人間の服装で綱渡りをさせられた「サーカスの熊」。
ロンドンの下水道で、雨水や汚れを川まで流す労役につかされた「下水熊」。
──現在のイギリスに、この愛おしい熊たちはいません。彼らはなぜ、どのようにしていなくなったのでしょう。
『10の奇妙な話』の著者であるブッカー賞最終候補作家が皮肉とユーモアを交えて紡ぐ8つの物語。
出典 : こうしてイギリスから熊がいなくなりました
1 精霊熊
2 罪食い熊
3 鎖につながれた熊
4 サーカスの熊
5 下水熊
6 市民熊
7 夜の熊
8 偉大なる熊(グレート・ベア)
8つの奇妙で切ない物語。
短編集と思いきや、繋がっている?果たして熊たちの行く末は…。
でっかくて かわいくて かしこくて もういない。
でっかくて かわいくて かしこくて もういない。
これは帯にか書かれたキャッチコピーなのですが、とても印象的。
【 こうしてイギリスから熊がいなくなりました 】という物語をうまく表現しているなと読了後に改めて思いました。
「熊」と言われるとどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
凶暴で恐ろしい野生のクマ。絵本やぬいぐるみといった可愛らしいクマ。某有名キャラクターでもあるハチミツが大好きな黄色いクマ。
イギリスと聞くとそれこそくまの○ーさんや、可愛いパディン○ンが有名ですよね。
しかし、みなさん知っていましたか?
イギリスに今現在、野生の熊が存在しないことを。
実は、イギリスの熊は11世紀に絶滅しているのだそうです。
私もこの作品を読むまで知らなかったのですが…衝撃的でした。
絶滅と言うからにはもちろん過去に存在していたわけですが、では何故絶滅してしまったのか。
当時、イギリスでは「熊」は娯楽の対象であり、また、食料や毛皮としても優秀だったために狩猟の対象でもありました。
娯楽の対象というのがまた残酷な話ですよね。
「熊」は愚かな人間の見世物にされていたそうです。
「熊いじめ」と言って歴史にも残っているらしく、鎖で繋がれた熊が大勢の観衆を前にして犬にいたぶられたりします。
このような恐ろしくも悲惨な事実が背景にあり、今作はそんな熊たちがいなくなった過程の物語でもあります。
人に寄り添い生きてきた「熊」がイギリスを離れざるを得なくしたのは人間である。
しかし、物語は寓話的に描かれているため残酷さは控えめ?
ユーモアを織り交ぜつつ、時に人間臭い熊たちの行く末を描いた物語。
切なくなりつつもとても美しい物語でした。
こんな奇妙な物語で、「熊」たちの声に耳を傾けてみてください。