【 くもをさがす / 西加奈子 】

くもをさがす 西加奈子 小説

 

祈りと決意に満ちた初のノンフィクション作品

 

西加奈子 著

くもをさがす

 

 

カナダで、がんになった。

あなたに、これを読んでほしいと思った。

 

直木賞受賞作【 サラバ! 】から7年、【 i 】から5年ぶりの、2021年10月20日に発売された前作【 夜が明ける 】は本屋大賞にもノミネートされ記憶にも新しい。

本屋大賞にノミネートされたこともあり、新刊発売時から各所の取材で大忙しだったと思います。

当時、至るところで西さんのインタビュー記事を見たり聴いたりしては【 夜が明ける 】を大切に読み進めていました。

2019年に語学留学でカナダ・バンクーバーに引っ越すことになった西さん。

海外生活に、お子さんがまだ小さいこともあって創作活動もなかなか難しいのだろうと勝手に「次回作までまた当分待とう!」なんて決意したりしていました。

今思うとすごく恥ずかしい。

 

今作【 くもをさがす 】の発売が告知され、まず最初に「ノンフィクション作品」という点に驚いた。

SNSも使っていない西さん。

西さんがどんな生活を送っているかなんてずっと知らずにいました。

カナダ留学も後々になって知ったくらいで、あまりプライベートをさらけ出す印象もなかったんです。

そんな西さんのノンフィクション作品とは…何があったんだろう。

 

発売日が近づくにつれて作品の内容が見えてきて更に驚く。

カナダでがんになりました

乳がんと宣告されて、カナダで治療をしていた西さん!

寛解されているとのことでしたが、大好きな作家さんがそんな大変な思いをされていたことに不安になりました。

 

作品を読んでまたも驚く。

2021年8月17日に乳がんであることを宣告されています。

夜が明ける 】が発売されたのは2021年10月20日でした。

9月10日には抗がん剤治療をスタートしているとありました。

一番大変であろう時に、雑誌の取材や小泉今日子さんとの対談…時にはウィッグを被ってのZoomインタビュー。

海外という母国とは異なる医療制度。ビザの問題。コロナ禍での医療機関のひっ迫。

次から次に難題が西さんに降りかかってきました。

夜が明ける 】では「自分には、困ったときにあらゆる人に助けてもらう権利がある」と強く主張していた西さん。

その言葉の重みを再度確認した上で読み進めました。

 

くもをさがす あらすじ

 

カナダでがんになった。
あなたに、これを読んでほしいと思った。

これは、たったひとりの「あなた」への物語ーー
祈りと決意に満ちた、西加奈子初のノンフィクション

『くもをさがす』は、2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から治療を終えるまでの約8 ヶ月間を克明に描いたノンフィクション作品。

カナダでの闘病中に抱いた病、治療への恐怖と絶望、家族や友人たちへの溢れる思いと、時折訪れる幸福と歓喜の瞬間――。

切なく、時に可笑しい、「あなた」に向けて綴られた、誰もが心を揺さぶられる傑作です。

出典 : くもをさがす

 

自分自身の体を知ること

 

乳がんといえば女性に多い疾患ですが、男性だって宣告される可能性は0ではありません。

胸部にしこりができる初期症状が一般的に知られているが、つるりとしていて良く動くしこりはがんである可能性は低いと言われています。

私自身もつるりと良く動くしこりを見つけて乳がん検診(マンモグラフィ)を受けたことがあります。

私のしこりは水分排出がうまくいかず水分が溜まっていただけですぐに帰されました。

しかし、それから定期的に検診には行くようにしています。

マンモグラフィは胸を引っ張られて機械でプレスされる。

乳腺の発達具合によって凄まじい痛みを伴うそうです。

私はまったく痛くありませんでした。

初回診察と医師からの指示がない場合は保険が効かず自由診察になってしまう。

痛みも伴い、安くはない診察料に足が遠のく人は多いでしょう。

 

 

しかし、西さんはつるりとした良く動くしこりだったそうです。

万が一の検査の大切さを思い知りましたね。

自分の体を知ることは自分の将来を守ることでもありますよね。

 

自分の恐怖を、誰かのものと比較する必要はない。全くない。怖いものは、怖いのだ。

作中のこの言葉がとても印象的で刺さりました。

病気もそう。

どんな病気も誰にでも起こりうる他人事ではないもの。

精神疾患もそう。

元気な人から見たらなんでそんなこと。という悩みや不安もその人にしてみたらとても重く辛いもので人と比べるものではない。

理解してあげることは難しくても、自分のものさしで測ってはいけないものだと思う。

当事者もそれを見守る周りの人間も声がかけやすい環境が求められますね。

自分が一番だし、綺麗事しか言えなくてうまくはいかないこともあるけれど、頭の片隅に少しでもこの考えがあれば少しは優しくなれるような気がしました。

 

私は私で、そして最高だ。

 

西さんの驚くような数々の経験に、時に胸が締め付けられながらもほっこりと優しい気持ちになる部分も多くありました。

 

デビュー当時の、登場人物がガンガン関西弁を使っていた西加奈子作品が大好きな私。

西さんがカナダ人の英語を翻訳すると関西弁になってしまう!笑

病院の先生方が西さんに関西弁でユニークに声をかける描写はたまらなく好きです。

 

そして作中で登場する西さんの愛猫のエキ

茶トラの猫ちゃんと聞いて思い出すのは【 サラバ! 】。

あの作品のあれはもしやこのエキくんがモデル!?

と考えて嬉しくなったり。

 

写真はイメージです

 

治療中に西さんにエールを送り続けていた日本の友人に、リョウやサヤカという名前。

作家仲間である、朝井リョウさんや村田沙耶香さんかな。

海外という地でも積極的に西さんをサポートしていた旦那さん息子さん

素敵な友人や家族みんなが西さんにエールを送り、助けようとしてくれる。

それは西さんのまっすぐでいて、優しい人柄があってこそなのでしょう。

 

絵が上手な西さん。

西さんの作品は、西さん本人が描いた表紙のイラストが目立ちます。

今作の表紙も西さんが描かれたものですが、その黄色いポップな表紙を外すと可愛いらしい絵が描かれています。

I LOVE MAMA」の文字の横には家族3人のイラスト。

息子のS君が描いたものなのでしょう。

可愛らしくて素敵な裏表紙も必見です。

また、治療中に西さんを支えた数多くの小説や歌の一文がところどころに溢れています。

気になる作品も数多くあったので、今後私も手に取ってみたいと思います。

 

自分の弱さを認めるということは簡単なようで難しい。

弱い自分を認めることで、初めて自分を愛せるのかもしれない。

私もいつか、自分は最高だ!と思える日がくるのだろうか。

弱い自分を剥き出しにして、これが私だと言える日がきたらいいな。

 

 

 

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