2020年本屋大賞ノミネート作品
水墨画との出会い
両親を交通事故で亡くした、大学生の青山霜介(あおやまそうすけ)。
孤独の中、水墨画の巨匠・篠田湖山(しのだこざん)と出会う。
篠田湖山の内弟子として水墨画に触れていくことで、自分の生き方と向き合っていく。
描くのは「命」。
まるで絵が見えてきそうな美しい水墨画を描く描写の数々。
主人公とともに水墨画に魅了されていく。
「水墨画」と言われると、墨や筆で描く絵。
と言うぐらいしか分からずの無知な私でも、その奥深さに魅了され楽しめました。
とにかく水墨画を描く描写が美しい。
墨をする時のあの香りを思い出して、懐かしく優しい気持ちになりました。
水墨画とは水暈墨章(すいうんぼくしょう)という言葉が元になっている。
水で暈して(ぼかして)、墨で章る(つづる)という意味。
塗る工程は無く、線を描くのが水墨画
油絵のように様々な色を使い分けるのでは無く、墨と水で画面に濃淡・明暗を表していく。
また、線のひき方一つで、その人の癖や雰囲気・弱点なんかも分かってしまうらしい。
青山霜介が篠田湖山から水墨画を学んでいく中で、水墨画の四君子「蘭」「竹」「梅」「菊」というものが出てきます。
絵画というと、自分なりに自由に表現したり、描き手の拘りが表れたりしてくるものだと思います。
しかし、水墨画となると話は別。
用筆法・用墨法をしっかりと学び、何度も練習を重ね、自分のものにしなければいけないとのこと。
その基礎の練習過程で用いられているのがこの「四君子」。
作中でも青山霜助がかなり試行錯誤して練習していました。
才能やセンスだけでは太刀打ちできない奥深い水墨画。
作品の中では、数人の水墨画家が登場します。
同じ題材を描いているのに出来上がる作品の違いや、その描き方や筆の動くスピードの違い。
それを分析していく霜介の繊細な表現がとても気持ちが良い。
この青山霜介。
とある出来事から美しい水墨画家と水墨画で勝負をします。
その勝負の行方や、孤独の淵から這い上がっていく霜介の成長を是非読んで確かめていただきたい。
美しい描写にうっとりしながら、感動すること間違い無し。
砥上裕將さん
作者である砥上裕將さん。
この【線は、僕を描く】で作家デビューとのこと。
というのも、本物の水墨画家さんなのです。
本書の始まりと終わりにも作品があります。
またこれがとても美しい。
ネットで検索すると他の作品もあり、私個人的に魅了されたのは、作品でも題材として出てきた「薔薇」です。
墨の綺麗なグラーデーションで描かれた薔薇の花びらが美しく、天に昇るように描かれているその風景に息を飲みます。
作中で霜介が色が見えると言った薔薇の作品。
本書を読んだ方も、これから読もうとしている方も是非一度調べてみてほしいです。
僕は、線を描く
のではなく、
線は、僕を描く
この意味は水墨画の本質と向き合いながら知ることとなるでしょう。