死を受け入れる
7年前、25歳でこの世を去った一樹。
遺された嫁のテツコ(オヨメチャン)と一緒に暮らしている一樹の父、義父(ギフ)。
ムムム
笑うことのできないお隣さん。怒ると困ったような顔をすることからムムムと名付けられる。本名は小田さん。元CA。
山ガール
テツコの友人。ギフの趣味の手助けとして一緒に山登りに行くことに。
トラちゃん
本名虎男。一樹の三つ下の従兄弟。一樹の思い出の詰まった白い車をもらい受ける。
岩井さん
テツコの現恋人。自由でマイペース。テツコに結婚を申し込むも…。
夕子
一樹の母。ギフの妻。誰かの死際がくると涙が止まらなくなる。しかし誰が亡くなるのかは分からない。
テツコとギフとその周りの人々が関わりながら、ゆっくりとその「死」を受け入れていく。
変わった世界観
一樹の死後も同居を続ける二人。
きっと周りには理解しがたいテツコとギフの世界観と関係。
互いに囚われているものがあって、恐怖から環境を変えることもできず。
そんな気付かないうちに染み付いたシガラミがゆっくりと時解されていく。
特に特別なことは無く、当たり前に平凡な日常を過ごすテツコとギフ。
ですが、その日常の会話や、生活は一つ一つがとても丁寧でいて緩やか。
所々でそんな二人の時間に、ほっこりと心が暖かくなりました。
最愛の人を亡くすってどんなに苦しいことなのかと想像しながらも、そんな酷な描写はありませんでした。
登場人物一人一人の悩みや葛藤がありつつも癒される。
一言で言うなら「あたたかい」。
そんな作品でした。
登場人物
作中に出てくる登場人物は皆どこかユニークであたたかい。
隣人に勝手に名前をつけてしまうテツコとギフ。
亡くなった一樹がいつでも見守ってくれていることを証明しようとするムムム。
ギフと山を登り、山を登る理由を見出した山ガール。
一樹の数々の武勇伝(いかに女の子をモノにしたか)をいつまでも大切に守り続ける虎男。
テツコに湿布を剥がしてもらう際に、湿布に大吉と書いてみせる岩井さん。
この岩井さん、最初は掴みどころが分からずあまり好印象では無かったのですが、話が進んでいくうちに好きになっていました。
どこか子供っぽいところもありながら、まっすぐでいて憎めない。
そんな岩井さんの物語も必見です。
木皿 泉さん
脚本家である木皿 泉さん。
「木皿 泉」というものが夫婦脚本家ユニットということを初めて知りました。
和泉 務さんと、妻鹿 年季子さん夫婦二人で一つのペンネームなのですね。
「すいか」「野ブタ。をプロデュース」などで有名な脚本家さんです。
「すいか」を観たことが無かった私は、Twitterのフォロワーさんからおすすめしていただいて観ることが出来ました。
【 昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫) 】同様とてもゆったりの時間の流れる作品で、キャストである小林 聡美さんに癒されました。
この「昨夜のカレー、明日のパン」も実写ドラマ化しています。
原作の「昨夜のカレー、明日のパン」も「すいか」も、とても好きな作品だったので、いずれドラマの方もチェックしたいと思っています。
人間味溢れる登場人物たちのヒューマンドラマ。
他人事とは思えない内容にどきりとしたり、共感したり。
オレ、くたくたになるまで生きるわ
このギフの言葉が忘れられません。
そしてタイトルの「昨夜のカレー、明日のパン」ですが、ラストにこのタイトルの由来があります。
是非本作で、この一見美味しい描写を思わせるタイトルに秘められた物語を覗いてみてください。