江戸は千駄木町の庭師一家「植辰」
辰蔵
酒好きだが、腕も気風もいい植辰の親方。
浮浪児のちゃらに「空仕事をしてみろ」と庭師の道へ誘う。
ちゃら
「ちゃんちゃら可笑しいや」が口癖なことから「ちゃら」と名前が付けられた元・浮浪児。
庭師として辰蔵の元で修行をすることに。
お百合
辰蔵の娘。幼い頃に母親であるお麻を亡くし、男手一つで育てられた。
気が強く、男臭い一家の中で女一人、植辰の家事の切り盛りをする。
玄林
石垣師であり、穴太衆の末裔。
石の見立てや、石組みの天才。
福助
庭師であり、辰蔵が京で修行いていた頃の仲間。
池泉や流れなどの水読みが得意。
庭師
庭師の仕事はな、空仕事ってえ呼ばれるんだ
辰蔵
いかほどの高みでも身一つで上がり、空に近い場所で仕事をする庭師。
石を据え、水を流し、木を植える。
庭の風景や自然の奥行きを考えながら、庭を作り上げていく。
目に見える部分だけではなく、陽の当たり方や、木の水の吸い方・成長の仕方。
季節を巡り、木々が成長するその過程も考えて作り出されるその風景。
豊富な知識・高い技術・経験が必要な職人業である庭師。
作中では主人公ちゃらの庭師としての成長が見えてきます。
庭作りをしていく上で、この植辰一家が沢山の知恵を絞りながら、あれやこれやと試行錯誤していく流れには、プロの仕事振りに感動しました。
自然がある空間と、その空間と共に人生を歩んでいく人間。
そこには心温まるドラマやロマンがありました。
嵯峨流
物語の途中「嵯峨流」と名乗る一門が登場します。
植辰一家の作庭に横やりを入れてくる「嵯峨流」。
この嵯峨流正法の家元・白楊という人間は辰蔵と過去に関係が…
家元違いの小さなトラブルかと思いきや、この出会いがきっかけで大きな事件に巻き込まれます。
白楊はちゃらに黒い挑発をしてくるように。
嵯峨流・白楊の真の狙いとは。
後半には少しミステリー要素もあり、ラストは驚異の大どんでん返しがありました。
序盤は江戸っ子口調に慣れず、なかなか読み進められなかったのですが、中盤あたりからは話の展開が凄まじく、読む手が止まらず一気読みでした。
お百合
親方辰蔵の娘であり、一家で唯一の女性であるお百合。
自然溢れる描写や、謎を追うミステリーな部分とは別に、このお百合の淡い恋心が開花していく様子も見どころの一つ。
母親が亡くなり、男手一つで育てられたお百合。
家の資金繰りや、家事を忙しくこなしていく日々。
同じ世代の女の子のようにお洒落をしたり、恋話に花を咲かせる余裕はありませんでした。
そんな日々の中、とある自分の想いに気が付きます。
この負けん気の強いお百合の恋の行方も是非確かめて頂きたいです。
元浮浪児から庭師へ
色々書いておきながら、一番の見所はやはり主人公「ちゃら」の成長していく過程でしょう。
季節の中で風がいちばんうまいのは、夏の初めだ。
ちゃら
という「ちゃら」の言葉から始まる本作。
親が誰かも、自分の名前すら分からず…その日暮らしで生きてきた浮浪児。
「ちゃんちゃら可笑しいや」が口癖だったことから「ちゃら」と呼ばれるようになります。
植辰一家の親方辰蔵の誘いを受けて、庭師の修行をしていくことに。
一家に来た当初は手がつけられず、山猫のような暴れ者だった「ちゃら」は、いつしか空仕事に夢中になっていきます。
家主の想いを汲み取った庭木の選び方や、庭の水の流れなんかを学んでいく中で親方に徐々に認められるようになります。
作庭を一任してもらえたり、庭に一人で足を運んだりと成長していく様子が面白いです。
しかし、そんな「ちゃら」はラストに…。
植物の香りがしてきそうな、作庭の美しい描写。
人情味溢れる登場人物たちの掛け合い。
目が離せない物語の展開。
【 ちゃんちゃら (講談社文庫) 】はおすすめしていただいた本でしたが、本当に読んで良かったと、私の中でもおすすめの作品になりました。
私は文庫版を読んだのですが表紙には「ちゃら」と思える赤毛の男性がいます。
単行本の方は少し異なっていて、ちゃらの下にお百合・辰蔵・玄林・福助と思われる人物がいます。
この可愛らしいデザインですが、なんと切り絵だそうです。
カバー切り絵:百鬼丸
カバーデザイン:スージー&ジョンソン
とありますがデザインは日本の方ではないのですね。
お値段は張りますが、この植辰一家が揃っている単行本も欲しくなりました。
皆さんも、お好みのデザインの方で楽しんでみてはいかがでしょうか。