第167回 芥川賞受賞作品!
原動力は『ムカツキ』
高瀬隼子 著
元々、大学の文芸サークル「文芸創作同好会」の仲間を中心とした文芸サークルに所属し、文学フリマで活動していた高瀬隼子さん。
芥川賞の受賞会見でも、受賞が決まってすぐに仲間と連絡を取り合ったとのこと。
【 おいしいごはんが食べられますように 】で第167回芥川賞を受賞されていますが、その前の年の第165回芥川賞でも候補作として【水たまりで息をする 】がノミネートされています。
『ムカツキ』が原動力になっているという高瀬さん。
日常の『ムカツキ』は忘れないようにメモを取りためているとのこと。
受賞会見でも『ムカツキ』について以下のようなことをおっしゃっていました。
私自身は社会人になって10年。
働き始めたころと比べていい方に変わってきているなと思う。
それでも、つらいことやむかついたりすることはあり、それを小説の中ですくい取っていけたら。
小説を読んだ方が救われるまではいかなくても、何か考えてくださったりすればと思います。
【 おいしいごはんが食べられますように 】では、まさに日常に潜む『ムカツキ』に読者もイライラさせられます。
社会人として組織に所属することで、感じたことある違和感・矛盾。
そんな違和感や矛盾に異議を唱えることが難しい環境。
他人事とは思えないやるせない世界がそこにはありました。
おいしいごはんが食べられますように あらすじ
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない人間関係を、食べものを通して描く傑作。
出典 : おいしいごはんが食べられますように
胃もたれ
物語は、職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾という3人の登場人物を軸に展開されていきます。
か弱く、可愛らしい芦川さん。
それとは正反対で、頑張り屋で仕事をテキパキとこなすキャリアウーマンな押尾さん。
そんな二人の間で宙ぶらりんな立ち位置にいるのが二谷という男性。
芦川さの仕事のミスや、体調不良で早退した後の仕事をカバーする押尾と二谷。
芦川さんへの不満が募る二人でしたが、そんな一方で芦川さんを可愛らしいとも思っている二谷。
このハッキリしないどっち付かずな二谷にイラッとする女性読者は多いはず。
仕事でミスはする。偏頭痛で早退しがち。
そんな芦川さんは、早退した翌日にお詫びの印として、みんなに手作りのお菓子を差し入れします。
「皆が守りたくなるような芦川さん」
体調も良くないのにみんなのためにお菓子を作ってきてくれて…と感動する職場の人々。
こんな芦川さんをどう思いますか?
職場の空気に流されて、お菓子を手に取るも…そんなお菓子を作れる体調だったのならば。
と思いませんか。
私なら『ムカツキ』を抱え込んでしまいそうです。
(しかし、表には出せないもどかしさ)
この物語、二谷と押尾目線で話が進んでいきます。
肝心の芦川さん目線の描写はないので、実際に芦川さんがどう思っているのかは隠されているんです。
それがとても怖い。
芦川さんが何か得体の知れないもののように思えてきて恐怖すら感じる。
いつもニコニコとみんなに明るく優しく振る舞う芦川さん。
うちに秘めている黒いものがあるかもしれない…もしかしたらそんなものはなく真面目なだけかもしれない。
個人的に芦川さんがすごく苦手。
甘ったるくて重い、胃もたれするような優しさ。
読み進めていく上でも、押尾さんを応援しつつ、何を考えているか分からない二谷にイラッとしました。
芦川さん目線の描写がないために、読む人によって感じ取り方も異なるのかなと思ったり。
他の方がどんな感情を抱くのかと気になる作品でした。
芦川さんの行動はその後更に加速していきます。
そんな芦川さんへの不満が溜まりに溜まった押尾さんは二谷にある提案をします。
二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか
芦川さんの加速していく偽善者的な行動。
押尾さんの提案した『いじわる』とは。
ぜひ読んでみてほしい。
タイトルからは想像できない胃がもたれそうな物語。
なのに分かる!分かる!と共感してしまい一気読み。
ごちそうさまでした。