第25回吉川英治文学新人賞受賞作品
現在と過去とが交差する
現在と2年前の過去が同時に進んでいく、カムバック形式と言われる物語。
現在
大学入学のために一人暮らしを始めたばかりの椎名。
突如アパートの隣人の河崎に「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。
目的は、一冊の広辞苑を盗み出すこと。
過去
ペットショップで働く琴美。
恋人であるブータン人のキンレィ・ドルジと一緒にアパートに住んでいた。
多発するペット殺しが世間を騒がせ始める。
椎名=押しに弱い大学生。ボブ・ディランの「風に吹かれて」を丸暗記している。
河崎=容姿端麗。世の女性全てと寝ること。それが彼の生まれた意義。
琴美=河崎の元交際相手。今はブータン人であるドルジと付き合っている。
ドルジ=ブータンからの留学生。見た目は日本人。琴美の恋人であり、同棲している。
麗子=琴美が働くペットショップの店長。肌が白く美しい。常に無表情。
現在では、椎名を中心として物語が進んでいく。
過去では、琴美を中心として物語が進んでいく。
この現在の時間軸での主人公とも言える椎名。
2年前に起こるある出来事(物語)に巻き込まれていくことになります。
違和感
現在と過去を行ったり来たりするこの物語。
読み進めていくうちにとある違和感が生まれてきました。
あの人物がいない…
嫌な予感が膨らみ始める。
そしてその違和感に気付き、最悪のケースを思ったところで先が気になりすぎて読む手が止まらずでした。
過去には、背筋がゾクっとしてしまうような猟奇的な事件が…。
その謎を紐解くパートが現在にあります。
この現在と過去の交差により少しずつ明かされていく真相。
終盤の伏線回収には思いっきり引き込まれました。
読んでいく中で「アヒルと鴨のコインロッカー」というタイトルがずっと謎だったのですが、伏線回収中にここか!!とスッキリ。
そして過去を思い出して感動したり、しんみりとした気持ちになったり、感情が揺さぶられました。
全ての出来事が繋がっていく。
交差された世界が一つの物語に集約されていく。
気鋭が放つ清冽な傑作と言われたのにも納得。
まさ叙述トリック!
ピースが足りないパズルを完成させようと、必死になってのめり込んでいく感覚。
【 アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫) 】で是非この感覚に溺れてみてください。
映画化
この作品は、2007年に映画化公開されています。
私もまだ観ていないのですが、登場人物も豪華で原作を読んだ今、映画の方にも手を出そうと思っています。
椎名=濱田岳
河崎=瑛太
琴美=関めぐみ
ドルジ=田村圭生
麗子=大塚寧々
謎の男=松田龍平
配役を見ただけでも、ん?と思う部分があります。
謎の男とは?
そして映画の予告編を観たのですがそこでも違和感が。
原作とは少し異なる物語になっているのでしょうか。
映画の方にも期待ですね。
ボブ・ディラン
作中にはボブ・ディランの名前や、名曲がいたるところに登場します。
ボブ・ディランと言えば2016年にミュージシャンで初めてノーベル文学賞受賞したとして騒がれましたね。
彼の曲で最も有名である「風に吹かれて」は、作中で椎名が口ずさむシーンがあります。
私もこの「風に吹かれて」を聴きながら「アヒルと鴨のコインロッカー」を読みました。
Yes, and how many times can a man turn his head
(人はあと何回顔を背け)And pretend that he just doesn’t see?
(見なかったフリをするのだろうか)
なんとなく作品の内容と被る部分を感じたり。
まさにこの声は神。
そんなボブ・ディランの声が作中のキーワードにもなっている。
伊坂幸太郎さんの他作品にもボブ・ディランが登場するとのこと。
また、他の作品もボブ・ディランを聴きながら入り込んでみたくなりました。